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第1話「ナーダ村を訪れた記者」

※規約に関しましては、「にぼしの声劇台本」利用規約ページをお読みください。台本の最後に添付してあります。


※この作品の登場人物は長文ゼリフが多めですが、ロサナとコルトは特に後半長文ゼリフが多いのでしっかり読み込んでください。なお、ジュゼのセリフが今回少ないので、アンと掛け持ちになります。


登場人物


ロサナ・アルコルタ

♀。19歳。

「アルコルタ一座」の座長。笑顔が大好き。

ジュゼッピィーナ・バルビ

♀。22歳。

「アルコルタ一座」の猛獣使い。獣人お姉さん。

アン・シェーベリ

♀。16歳。

「アルコルタ一座」のパフォーマー。根暗娘。

モン・インツー

♂。14歳。

「アルコルタ一座」の雑技担当。脳内お花畑。

ギュンター・フィンケ

♂。26歳。

「アルコルタ一座」の美しき道化師。美少年。

リーヌス・クレランボー

♂。45歳。

「アルコルタ一座」の空中曲芸担当。おじさん。

コルト・オルカーン

♀。18歳。

新聞記者の父を持つ女の子。

仕事にやりがいを感じ始めている。


ロサナ:

ジュゼッピィーナ(ジュゼ)、アン:

モン:

ギュンター:

リーヌス:

コルト:


ロサナN:アルコルタ一座。それは誰もが憧れる、笑顔溢れる素敵なサーカス団です。私、ロサナ・アルコルタはその団長であり、老若男女みんなの笑顔を守るために奮闘しているのです!

ロサナ:おーはよ!みんな!

アン:うーっす。あーうざ。団長はいつもテンション高いんだからもう少し大人しくしてよ。

リーヌス:団長が元気いいと気力が湧くだろ。それに、不幸溢れるこの地から彼らを守るために、俺たちは活動してるわけだろ?いいじゃねぇか。

ギュンター:幸せとは…何を持ってして幸せなのか。そのことを団長はよく分かっていらっしゃる。そのことはゆめゆめ忘れぬようにせねば。

モン:なー!あの世界に閉じ込めた人間って、どのくらいの人数になったんだっけ?

アン:200人ちょっとよ。ってかそれくらい覚えたらどうなの?マジさー。モンってホントバカ。

モン:バカじゃねーもんオレ!馬肉と鹿肉は美味しくないんだぞー!アンはグルメ通なんだな!

アン:言ってる意味がさっぱりわからない!

ジュゼ:アンもモンもしちくさいガキね。そんなことで言い合ってるようじゃ大人になれないよ?

アン:こいつムカつく…。あとでカチ込むか。

モン:かきこむ!俺もご飯かき込むぞーアン!

ロサナ:よーし、今日も疲れきった老若男女の皆さんをお迎えしちゃうぞ!今回は、ナーダ村に依頼が来てるみたい!村単位でも、人々が幸せになることに限りはない!よし!いーくぞー!


ロサナN:アルコルタ一座が意味するのは、幸せ。だから、また、不幸になって欲しくないの。もう、誰も辛く苦しい思いなんて、しなくていいんだから。もう二度と帰らなくていいんだよ。


コルトN:私、コルト・オルカーンは、今!ナーダ村に向かっています!何故かって?あの人気サーカス「アルコルタ一座」が来るからなんです!父の手伝いも兼ねて、取材のために訪れたのですが…「アルコルタ一座」のパフォーマンスを見た人間は戻ってこないという、恐ろしい噂があることも事実なのです。それを調べるべく、コルトとお父さんは取材を決行するに至りました!

コルト父(リーヌス兼任):コルト!もうすぐナーダ村だ!カメラの準備をしなさい。さぁ、目にものを見せてくれよ…!アルコルタ一座…!

コルト:もう、お父さんってば〜♪一座は夜に来るんだよ!だから、先に宿を取っておいたんでしょ!…ふふっ、これから楽しみだなぁ…。

コルトN:早めの夜ご飯を食べたら、いよいよ突撃です!ワクワクしてきちゃうなぁ!もちろん、表にはいかず、裏から突入して取材許可を取りましょう!…例の噂が本当だと危険ですからね!


(遠くからジュゼと会話するロサナ。ジュゼは裏口前から、ロサナは部屋にいる。互いに大声で。)

ジュゼ:…起きなさいよ、座長!裏から誰か呼んでるよー!(以下小声)…公演前だってのに何様のつもり?

ロサナ:(大声で)え!裏から来てるの!?チケットいらないから表から入ってって言っといてー!

ジュゼ:(大声で)だめ!なんか記者の人っぽい!取材してもいいかって聞いてくるんだけど!

ロサナ:(以下小声)記者さんか…さぞかし辛いんだろうな。私たちの取材で、きっと疲れてるのね。(大声で)あ!じゃあ!取材を受け入れよう!その記者さんも…あとは分かるよね?!

ジュゼ:(大声で)分かった!通す!…記者の人なら、こっち側から入れてもいいかもしれない!

(その会話を聞くコルト。心配そうに聞く。)

コルト:あのー!大丈夫そうですか!?無理なら、公演後にまたこちらからお願いしますが…。

ジュゼ:入っていいよ。取材でしょ?…なんてたって、世界中を幸せにするために活動してる「アルコルタ一座」よ?不可能なんかないわ。

コルト:そのわりには、結構揉めてた気がするんですが…。

ジュゼ:何?アタシに噛み砕かれたいの…?(怒)

コルト:ご、ごめんなさい!

(座長室へ案内されるコルト。ジュゼとの対話。)

コルト:あ、あの…あなたがあの猛獣使い…「ジュゼッピィーナ・バルビ」さんですよね…?

ジュゼ:バルビでいいわよ。ここのヤツらはみんな「ジュゼ」って呼ぶけど、苗字で呼ばれた方が気が楽だわ。

コルト:私!獣人って初めて見ました!…あれ、お父さん、どこ行っちゃったんだろ…。昼間あんなに取材するの楽しみって言ってたのに…。

ジュゼ:…!!(小声でブツブツと)あの怪しい人影…コイツの親父さんだったのね…。

コルト:ん?何か言いましたか?

ジュゼ:なーんでもない!さ、着いたわ!ココがあんたお目当ての座長様が御座す部屋よ。

コルト:うわぁ〜っ!(歓喜の目)

コルトN:お父さん。私は、あの、「アルコルタ一座」の座長室前まで来ました。これから突入、取材。楽しみです。なんでお父さん来ないのか分からないけど…ちゃんと帰ってくるからね!

第1話「ナーダ村を訪れた記者」: 概要

(サーカス会場。中央でリハーサルをするモンとアン。)

モン:なぁ、アン!これからいっぱい客を招いて!あの世界に招いて、不幸から守るんだよな!ガッコーとか、シゴトバとか、人間って色んなものに囚われてるから、可哀想だ!だから、俺たちが守ってやらなくちゃならないんだ!これはシゴト、じゃなくてボランティア、なんだからな!

アン:さっきからうるさいわよ。皿回ししながら喋るとかさ…アンタホントに芸達者なのね。でも、いつの時代も「働かざる者食うべからず」とか言うけど、無理して働く必要なんてないのよ。

モン:それは最悪なコトワザだ!働いたらそれに見あったお金を…っていうけど、そもそも見合ってないことの方が多いし、それにケンリョクっていうやべー力を持ったやつが大暴れしてるから、みんなみんな疲れちまうんだ。だから、疲れなんてない世界で永遠に過ごそってリョーシンに言ったら家からツイホーされた。「ニート」は許さない、って言われた。働くことってセーギなの!?

アン:モン、静かにしてよ。アタシのパフォーマンスの邪魔しないで。よーやく、手品が上手く行きそうなんだから。…ほら!お金消えた!…はぁ、好きなことだけして好きなことだけで生きていけたらいいのにね。現実なんて必要ないのよ。


(サーカス会場隅にて練習するギュンター、遅れてやってきたリーヌスと会話する。)

リーヌス:クラウン、調子はどうだい?

ギュンター:リーヌスさん、普通ですよ、これくらい。失敗は許されませんからね。座長のために、私たちはお客様をお留(とど)めさせなければならないので…。座長がいることでこの一座はなりたってるんです。

リーヌス:その座長…演出とMC以外やってないけどね…特にこれといったパフォーマンスは持ち合わせてないみたいだし…うぉ!?

(ギュンター、ナイフをリーヌスに向ける。リーヌスの頬を掠め、頬に切れ込みが入った。)

ギュンター:…座長の悪口はそこまでにして頂けませんか?年上だからといって、私は容赦しませんので。くれぐれも発言にお気をつけ下さい。

リーヌス:ひぇ…相変わらずクラウンは座長のことが好きなようで…へへっ。んじゃあ、俺も練習するかぁ。これ以上クラウンを怒らせると本番に支障出ちまうもんね…。んじゃね、クラウン。

ギュンター:では、本番でお会い致しましょう。

…リーヌスさん、私たちの使命は「お客様に対して、永遠の幸福を提供すること」です。これが欠けることは決してございませんように。ふふっ。


(コルト、ジュゼに連れられ座長室へ入る。)

ジュゼ:座長ー!例の記者の人来たよー!

コルト:は、初めまして!コルト・オルカーンと申します!本日は、そ、その、「アルコルタ一座」の取材を…さ、さしぇ、させて頂きちゃく…!

ロサナ:ふぁ〜あ(あくび)。…そんな堅苦しくしないでいいよ!記者さん、ウチへようこそ!歓迎するよ!私、「アルコルタ一座」の座長、ロサナ・アルコルタです!コルトちゃん!仲良くしましょ!取材だよね!どんな質問にでも答えるよ!

ジュゼ:…やっば。そろそろ公演の時間だよ!座長、話してる暇ないって!アタシが質問に答えとくから、座長は行って!はやく!

ロサナ:ええ!もうそんな時間!?やばいーっ!コルトちゃん、また後でね!ジュゼの番はもう少し先だから、ジュゼとお話していいよ!


(ロサナ、座長室を出る。ジュゼ、呆れる。)

ジュゼ:確かに、私まだ出番先だけど…この人とは散々話したのよね…。ま、一座のことに関してなら、なんでも答えるわ。

(座長室の戸を叩く音が聞こえる。)

ジュゼ:あ、きっとリーヌスね。いらっしゃい。

コルト:リ、リーヌス・クレランボーさん!?あの空中ブランコの人!?

(リーヌス、座長室に入ってくる。)

リーヌス:座長、すげぇ勢いで駆け出して行ったな。ギリギリで記者なんか迎えるからだよ。

ジュゼ:でも、記者さんが来るってことはこれって要はつまりチャンスなのよ!分かるでしょ!

リーヌス:あー、なるほどね…。

(リーヌス、怪しい目付きでコルトを見る。)

コルト:…!?

リーヌス:…要は宣伝になるってこったァ!

ジュゼ:そーなの!!公演後でもいいけど、どうせなら宣伝しておくに越したことないでしょ!?

コルト:ふ、2人とも…どうかされましたか?

ジュゼ:ああ、いいの。こっちの話だから。

コルト:は、はい…。

リーヌス:…嬢ちゃん、名前は。

コルト:コルト・オルカーンです。あの、「タルカニア・タイムス」ってわかりますか?あそこの新聞記者をしております!

リーヌス:(小声で)…オルカーン。ああ、あのうるせぇ親父か。シメといたが気づかれてないか?

ジュゼ:(小声で)娘の前でそういうこと言うんじゃねぇよ。コイツも選択間違えりゃああなるんだからよ。

コルト:あーのー!大丈夫でーすーかー!?

リーヌス:ああ、すまんすまん。取材受けるか。待たせてごめんな。それで、嬢ちゃん。何が訊きたいんだい?

コルト:…単刀直入に言います。…「アルコルタ一座」の公演を見た人が帰ってきていないという噂を聞きますが、これはどういうことか、教えていただけないでしょうか?

リーヌス:…。

ジュゼ:…。

(2人、一気に黙りこくる。下を向く。)

コルト:(徐々に大声に)答えづらい質問なのもわかります!ですが私は気になるんです!…ご家族様や職場の方々が心配なさっているんです!私は!話が聞きたいんです!教えてください!なぜ!人々が行方不明になるんですか!?

リーヌス:これは、帰せなくなっちまったな。

コルト:…へっ?

ジュゼ:そうね。…コルト。アンタに選択肢をあげるわ。この質問を取り消してなかったことにするか、それとも今この場でシメられるか。答えて。

コルト:は、はぁっ!?答えて欲しいのはこっちなんです!現に私の姪甥も行方不明になってるんです!無事なら無事だと教えていただければそれで十分ですので!!

リーヌス:…嬢ちゃん。甥姪に会いたいのか。

ジュゼ:だったら、第三の選択肢をあげる。幸せな世界に、興味はない?

コルト:…幸せな、世界…ですか?

(モン、ノックせず座長室へ。ジュゼを呼ぶ。)

モン:ジュゼ!出番だぞ!今アンが手品してる。俺がコイツのメンドー見るから行ってこい!

ジュゼ:…分かった。モン、コイツには気をつけて。…現実逃避なんて知らない子らしいから。

(ジュゼ、座長室を去る。モン、コルトを警戒。)

モン:…リーヌス。コイツなんか言ったのか。

リーヌス:…どうやら、幸せになったヤツらを返して欲しいんだとよ。…こんなクソッタレな世界に。仕事至上主義なこの不幸な世界に。

コルト:そこまで言ってない…というより、どういうこと!?…途端に口が悪くなるし、やっぱり何が闇があるんですかね!?…負けませんよ私。

モン:…お前。シゴト、って好きか?

コルト:もちろん!大好きです!…なんなら、「働かざる者食うべからず」という言葉があります!「ニート」はいけません!人は働いてこそ、それ相応の価値を得ることが出来るんです!…私、「好き」を仕事にできてるので…毎日が幸せなんです!…っていやいや!私じゃなくて、取材したいのはこっちなんです!!

モン:…俺、お前嫌い。だって、俺の嫌いな言葉2回も吐いた。…お前、シゴト好きなんだ。疲れて、疲弊し、汗水垂らして。必死で。…ハハッ。

コルト:な、何がおかしいんですか!?

モン:…世の中は、「好き」をシゴトに出来ないヤツの方がほとんどだ。お前は勝ち組。ほんのひと握りの幸福を掴んだ人間。お前ら勝ち組の勝手なシソーで、働いている時間が幸せとか抜かして生きてやがるお前に、お前の甥姪を渡すことなんか出来ない。

コルト:ど、どういう…こと…!?なにそれ、私が悪者みたいじゃないですか!?…働くことの何が悪いことなんですか!?「好き」を仕事にできただけで…私がそんなことを押し付けてる理由になりませんよ!!

リーヌス:ヤツらは夢を子供の時から壊されてる。サーカスが見たいって言ったのも、全部決まりきった現実から逃げるためだったんだ。アイツら、自営業の家系に生まれているから引き継げよ、って決められてる。…嫌だよな。不幸だよ。アンタみたいに親の仕事を仕事にしたい連中だけが自営業の家系に生まれるわけじゃねぇんだよ。

コルト:だって!親のやってる仕事はやってみたい!って思うじゃないですか!!…引き継げって言われたら私は遠慮なく…!

(モン、コルトを遮って叫ぶ。)

モン:あーあーあー!俺そういう話聞きたくない!シゴトに溺れた人間のシソーなんか聞きたくない!働くことにセンノーされたお前なんて嫌いだ!不幸を無理やり幸せにこじつけようとする人間なんか嫌いだ!とっととシメよ!嫌い嫌い!


コルト:これは…はやくみんなに伝えないと!「アルコルタ一座は、人々を誘拐する危険思想を持った組織だった!」って。サーカス集団って、フィクションものだとだいたい悪いことしてるけど、まさか現実にあるとは思わなかった!

(コルト、座長室を出て出口を探す。しかし、いくら駆け回っても出口らしきものがない。モン、無邪気そうな笑顔を浮かべコルトを追い詰める。)

モン:…普通のやつにここから出るなんてできないよ。へへっ、お前はもう逃げられないんだよ。

リーヌス:おっ、と…アンが帰ってきたな。んじゃ俺行くわ。モン、アンと一緒にコイツの処置考えとけよ。…はぁー、演目前に気分わりぃ。

(リーヌスと交代でアンがコルトの元に。)


アン:リーヌスが急にテンション低くなってたんだけど…どういうことなの?

モン:コイツ、シャチクってヤツらしい。働くことが幸せなやつで、「好き」を仕事にできる勝ち組らしいんだ。親の仕事なら興味を持って、引き継ぐべきだとか不幸の押しつけを平気でするような女さ。

コルト:そこまで言ってない!みんなして、私をそこまで嫌うのは何故なんですか!?さっきまでと態度が一変してるし…!!

アン:…親の仕事なら、って考えてるやつ一番嫌い。押しつけがましいのよ、アンタ。新聞記者の親を持ってるみたいだけど…アンタの父親、うざいから消した。何アレ。アンタが引き継ぐこと前提でうごいてるじゃない。これだから親って奴は…自分本位でしか動かない馬鹿なのよ。…私の兄もそう、仕事を継ぐべきなんだってうるさいの。私のやりたいことをやらせてくれない。仕事にならない、お金にもならない。享楽なんて必要ない。なんて。アンタ、不幸ね。仕事に毒された可哀想な人間。…趣味とかってあるの?

コルト:…スクラップかな。ライバル社の新聞もか興味あるし…こういう見出しも効果あるんだって実感できますね!…って!何答えちゃってんだろ!?追い詰められてるはずなのに!

アン:…仕事から生まれた趣味ね。はーあ、何事に関しても仕事に囚われてる。…ダメね。コイツは手遅れ。幸せになる価値すらないわ。消す。

コルト:…さっきから消すとか、…待って。サラッと飛ばしてしまったけど…アナタ、なんて言いました?父親を消した?…どこに!?どうやって!?

モン:まずは口から削ぎ落としてたよな。ギュンターは口減らずが嫌いだからな。愉快だったよなー、テオクレな人間を殺すっていうのはさ!!

コルト:…!?…待って!殺す…ってどういうこと!?…アナタたち、私の…お父さん…を…殺した…ってこと?ふざけないで!あんなに仕事熱心なお父さんを殺して、何が楽しいの!?

モン:…仕事熱心だから嫌いなんだよ。矯正する意味がなかったから殺したんだ。幸せな世界に踏み入ろうと馬鹿な考えをしたみたいでさ…。

アン:アンタだってそう。ここまで親に毒された人間を見るのは懲り懲りだわ。はっきりいえば目障りなのよ。

コルト:…狂ってる…!!アナタたち狂ってる!

モン:ははっ…はははははっ!!

アン:…サイッコーの褒め言葉じゃないの。

コルト:…さっきまであった出口はどこにあったの!?お父さんは!?お父さんはどこにやったの!教えなさい!幸せを壊してるのはアナタたちだってこと、…自覚したらどうなの。

アン:まっさかー!世の中不幸だらけよ。社会の歯車として生かされてる不幸から救い出してあげてるだけなのに。

モン:…お前も救われるべき人間だった。けど、俺もコイツ嫌いだし、テオクレだなって思う。コイツ、俺が殺しちゃってもいいよな!?なぁ!!

(モン、コルトに殴り掛かる。それを避け、必死に駆けだすコルト。)

コルト:…はぁ、はぁ、はぁ…ッ!!

コルトN:どうしよう、私まで殺される…!お父さんが来なかったのも…奴らに殺されてたからなんだ…!!急展開すぎて、ついていけないし…!

第1話「ナーダ村を訪れた記者」: 概要

(コルト、何かしらにぶつかる。)

コルト:へぶっ!!

ギュンター:ん?何ですか?…アン、モン、この小娘は、なぜ裏口にいるのですか?

アン:ソイツ、始末しようと思ってたの。仕事に取り憑かれた馬鹿なヤツだったから。

モン:…ギュンター!もう終わったのか!だったら、コイツを殺してくれ!俺もうコイツ見てるだけでおかしくなりそうなんだよ!

コルト:もう既におかしいじゃない!人を殺そうと考えてること自体が!!

(ギュンター、コルトを抱きしめる。)

ギュンター:…確かに、私たちはおかしいのかもしれません。ですが、仕事におぼれるこの現代社会に生きる方々もおかしいのですよ。おかしい人を作り出すのは、いつだっておかしい人です。お互い様なのですよ。…お名前を?

コルト:コルト・オルカーン、です。アナタたちが殺した父親の、娘です。…まさか、こんな最悪の事態になるなんて、思いもしませんでした!

ギュンター:…ははっ、ははははっ!なるほど、だいたい察しました。アン、モン。アナタたちが彼女を殺したがる理由は分かりますとも。でも、まだ20歳も過ぎていない少女に対しての処罰がキツすぎではありませんか?確かに、あの父親は仕事人間、手遅れな方で大変腹が立ちましたが…彼女に、矯正する機会をあげましょう。子供なら、救うべきなのですよ。もちろん、働いて休んでの循環した生活に退屈した方々も。不幸を抱えた人間を救うのが、私たちでしょう?

アン:…じゃあ、とっとと送ってっちゃってよ。

ギュンター:…一緒にフィナーレが飾れませんよ。ここからはどうせ出られません。ゆっくりしてもらっていただいても問題ありませんし。…フィナーレ、飾りに行きましょう。座長も待っておられます。

モン:どうせ連れてくなら、観客席に案内しよ!観客には幸せな世界を提供しなきゃな!

コルト:と、とりあえず…ギュンターさん。いい加減腕、離してくださいよ…!!

ギュンター:おっと、これは失礼。座長のように可愛らしい方だったので…。ふふっ。

モン:ギュンター、ってヘンタイっていうんだっけか!ビミョーに気持ち悪いとこあるよな。

アン:座長のこと好きすぎる敬語メンヘラな癖に浮気とか図々しいよ。マジいい加減にしな?

ギュンター:誰がメンヘラだと言いましたか?…アン、また切れ込みを入れられたいんですかね?

アン:…あーあーもういいですー。…行こ。サイッコーな世界、見せてやった方が早い。コルト、アンタもアソコを知ったら他のことなんてどーでも良くなるんだから。

コルト:さっきから…幸せな世界って、一体なんなんですか?…う、うわっ!勝手に腕が引っ張られる!?

アン:簡単な手品よ。あんたと会話してるあいだに、極細ワイヤーを四肢に絡ませといたの。…下手に動いたら、アンタ、幸せな世界に行く前に死ぬわよ?

ギュンター:…この世界での幸せなど無に等しいもの。それをアナタもご存知のはずでしょう?…疲弊し帰宅した方々は、明日という日に震えて眠り、仕事という恐怖から逃げられない日々を続けているのです。「働かざる者食うべからず」、ですか。…現代社会が生み出した最悪のことわざです。…ならば、せめて疲弊などしない世界にいた方が良いでしょう?その志の元に、私たちは集まったのです。…黒くドロドロした現代社会に永遠なるサヨナラを告げるために。…それでは皆様。

フィナーレです。彼女のこれまでの不幸な人生に終止符を。


(サーカス会場。周囲は拍手喝采。コルト、アンに連れられ会場の中央へ。)

コルト:…なに、これ。観客が…1人も笑ってない…。おかしい…サーカスって、みんなを幸せにするものじゃないの?

リーヌス:おっ、来たな。コルトも引き連れてどうした。…ああ、送ってやるのか。ヤツを。

ロサナ:…コルトちゃんだ!…大丈夫?目、死んでるけど。観客席を見なよ!みんな、みんな過労、不安から解放されて笑ってるじゃない!コルトちゃんだけだよ?怖い顔してるの。

アン:まぁ、あの演目を見てないんだもの。笑えなくて当然だわ。ロサナ、アンタがこいつを見送るべきよ。

モン:俺たちは先に誘導するからさ。あ、その前にフィナーレやっとくか!

ロサナ:それでは、見に来てくださった方々に、感謝と幸福を込めて、ありがとうございました!

コルト、ロサナ以外:ありがとうございました!

ロサナ:観客席にいらっしゃる皆さんは是非こちらから、サプライズをご用意しています!中央ステージへ続く階段から中央ステージにお進みください!サーカスの方々が奥へご案内します。


ロサナ:さて…コルトちゃん。サプライズ、受ける準備はいいかい?

コルト:…い、嫌ですッ!どうして…サプライズってなんですか!それより、なぜお父さんを殺したんですか!!不幸だから?救えないから?なんですかそれ!仕事してる時のお父さんが一番幸せそうに見えるんですよ!座長さん!アナタには分からないですよね!意味の無い幸せを送り付けるだけのアナタじゃ!分かるわけないですよね!?

ロサナ:…ははっ、ははははっ。意味の無い幸せだって?…そういう人がイッチバン嫌い!!世の中には生まれながらにして苦労している人がいっぱいいる。過労の他にも、貧困、虐待、ハラスメント…様々な面で苦労している人を救いたいの!…それだけ!人を助けたいだけなの!他に理由がある!?…コルトちゃん。正直になりなよ。幸せになりたいって。…好きなことだけして生きていたいって!

コルト:それは現実逃避にしかならないの!…確かに、私は勝ち組なのかもしれません。だけど!…好きなことだけやって生きていけるほど世間は甘くないんだよ!…おこがましいかもしれないけど、これが現実なんです…。世界はそうやって循環しているんですから。あなた方がしていることは間違っています。…ある人が言ってました。休みが永遠に続けばいいのに、なんて思っていられるのは子供のうちだけだって。その休みが永遠に続けば、社会に適応できなくなり、周囲から白い目で見られるようになるって。

ロサナ:…それはね、この世界での話なんだよ?今からコルトちゃんが行く世界は、そんな甘い世界なんだよ。この世界での常識なんて通じないから。大丈夫。すぐに楽になるんだよ!…全ての人が幸せになれる!周りがそういう人達だらけだから、白い目で見られることもないよ!コルトちゃん、この幸せは、そこだけでしか味わえないんだよ!…ねぇ、ちょっとでもいいからさ!…ははっ、ねぇ!コルトちゃん!…すぐに幸せになりたくない!なりたくない!?ねぇねぇねぇってば!

(ロサナ、幸せになりたい、系の発言を語り続けながらコルトのセリフに入る。ここのロサナはアドリブが入っても大丈夫だが無関係なのはNG)

コルト:ちょっと!!強引すぎますって!!そんな世界あるわけないじゃないですか!夢見るのもほどほどにしてください!!ロサナさん!正気じゃないですって!うわっ!うあああっ!!!!

(ロサナ、アドリブ終了。)


コルト:…んんっ、ここは?

コルトN:そこは、何もかもがない。虚無の世界でした。アンさんが私に絡めたワイヤーに引っ張られて連れてこられた世界は、あまりにも無情で、幸せなんて、感じられませんでした。ゾンビのようにさまよう観客達。彼らは、ありもしない幸せに釘付けになっていた。私は声をかけてみた。

コルト:大丈夫ですか!そっちにも、あっちにも、何も無いですよ!!皆さん!正気になってください!

コルトN:ダメだ。すっかり虜になっている。これは、意味の無い幸せだ。座長達「アルコルタ一座」は一体何をしようとしているのだろう。これでは、現実逃避だ。本当に、人々を救いたいのかな。ー終わりのこない休み。この世界にはこれが合っていると思った。休みは終わりがあるから楽しいのであって、終わりのない休みなんて、虚無と一緒。虚しいだけ。私は、人々を救いたい。虚無の乞食になっている人々を救いたい。こんな幸せは間違っている。私は、歩き出した。先の見えない道へ向かって。


ロサナ:みんな、みんなが幸せになればいい。私はそれでいいの。みんなが幸せになれば、私たちアルコルタ一座がいる意味がある。幸せである意味を見出して、ここまで来たんだもん。間違ってないよね、私?間違ってるはずないんだもんね?あははっ。そう考えたら楽しくなってきた。みんなみんなみーんな幸せにしたくてたまらない。…幸せになる権利を手放した人なんて生きてる価値ない。…そうでしょ?そうだよ!…はははっ、ははははっ。お父さんも、素直になっていれば、コルトちゃんの元に行けたのにねぇ!あはははっ、あははははははっ!…あ、行商人さんから頂いたタピオカ、っていう食材、賞味期限近かったな。…ドリンクに入れるのが美味しいらしい。…幸福薬にでも混ぜてみよっかな。…あー、ダルい。


アン:次回予告よ!

モン:コルトって奴、幸せになれただろうな!親父の二の舞にならずに済んだみたいだぜ!

アン:…ん?次の場所はサービス業が盛んなバチェスタ2番街のホールで行うらしいわね。

モン:そこにいるヤツらも幸せにしてやろうぜ!

次回、「バチェスタ2番街の靴磨き」

アン:…聴いてる皆もぜひ寄ってらっしゃいね!

第2話「バチェスタ2番街の靴磨き」
第1話「ナーダ村を訪れた記者」: 概要
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