第1話「形勢逆転」
※規約に関しましては「にぼしの声劇台本」利用規約ページをお読みください。台本の最後に添付してあります。
菜山ヒロキ(エルド二等兵)
♂ 16歳。(動物年齢3歳)
動物を好く心優しき青年。
異世界突入後は黒犬のエルド二等兵になる。
後藤アヤハ(チェルシー中尉)
♀ 19歳。(動物年齢4歳)
黒髪姫ロングが特徴の女性。
異世界突入後は黒猫のチェルシー中尉になる。
シルフィ准将
♀ 動物年齢13歳。
細かいことにうるさいウサギ。
とにかくグチグチうるさいおばはん。
ヴィゼル元帥
♂ 動物年齢9歳。
あらゆることを達観するホワイトタイガー。
とある理由から花を嫌っている。
ポチ二等兵(二等兵のポチ)
♂ 動物年齢2歳。レジスタンスの新米兵。
本作では「二等兵のポチ」として登場。
雰囲気がチャラく、「っス」が口癖である。
ヒロキ(エルド二等兵):
アヤハ(チェルシー中尉):
シルフィ准将:
ヴィゼル元帥:
ポチ二等兵:
ヒロキM:俺の名は「菜山ヒロキ」。どこにでも居る普通の高校二年生なんだけど…。登校中に、側溝にハマった猫がいたんだよ。
ヒロキ:大丈夫かー?今出してやるからな〜?
ヒロキM:思えば、あの猫を助けようとしたのが間違いなのかもしれない。俺は猫を引っ張りあげようと、両手で猫の手を掴んだ。すると、突然不思議な、重力のような力が両手に負荷した。俺は、その重力に抗えず、側溝へ落ちていく。しかし、底があるはずの側溝に、底がないのだ。どこまでも俺は落ちていく。気づけば、猫の存在はない。
ヒロキ:…んんっ。ここはどこだ?って、うわっ!
ヒロキM:意識を取り戻して、俺は両手を見つめてみる。すると、俺の両手は真っ黒な毛で覆われていた。何より、自分の手に肉球があることが新鮮だったのだ。辺り一面を見渡し、ここがとある部屋であることも確認した。鏡を見つけた俺は、急いで近寄る。顔まで、犬そのものだった。
ヒロキ:「はぁ〜っ!?どういうことだよっ!?いや、犬は大好きだけどよ…っはぁ…。ってか、なんで喋れてるの俺!?動物だよな…これ…。」
ヒロキM:そこにコツコツとヒールを鳴らして歩いてくる誰かがいる。俺の部屋の前で立ち止まって、こう声をかけた。
シルフィ:エルド二等兵!エルド二等兵はいるか!シルフィ准将だ!起きているか!反応せよ!
ヒロキM:エルド二等兵!?…たぶん俺なんだよな。ってか俺しかいないか。答えないとまずいな…そもそもどうやって返せばいいんだ?軍隊に入ったことなんて当然ないし…ええいままよ!!
エルド:はっ!自分、エルド二等兵であります!シルフィ准将殿!お会いできて光栄であります!
シルフィ:…はぁ、いつも私の顔を見ているだろ?何がお会いできて光栄、だ。顔を出せ顔を、早く!
エルドM:やっべぇ…間違えた。自分の上司なら、毎日会ってて当然だよな…まじぃ。呼ばれちった。
エルド:はっ!すぐに顔を出します!
シルフィ:はぁ…貴様、起床しているならそうだと言えばいいだけだろ。全く、雑兵(ざっぺい)風情が。
エルド:申し訳ございません!准将殿!
エルドM:…待ってくれ。ウサギじゃないか。ウサギが喋っている!?嘘だろ…!幻影とか幻聴だとか誰か言ってくれよ!!でも、俺が犬で、喋れているんだからおかしくない…って俺は何を考えている!?とりあえずこの世界は普通じゃないっ!それより、早く適当に答えないと…まずい。
シルフィ:…殿じゃない閣下だ。まったく、言葉遣いがなっていないぞ。ところどころ文体がおかしすぎる。…エルド二等兵、無事起床を確認した。
エルド:はっ!至らぬ点が多い故、寛大なる准将閣下の御心に感謝致します!
シルフィ:まだ許したとも言っとらん。少し頭を冷やせ。【人間狩り】の時刻になったら呼ぶぞ。
エルド:はっ!准将閣下の御心のままに!
エルドM:待て…【人間狩り】!?俺はとんでもない言葉を聞いてしまった!!この世界は一体何が起きていて、俺は何をしなければならないんだ!?
エルド:はぁ…なんだよ、人間狩りって…。あと動物に言葉遣い直されてる俺って何…?ウサギでもあそこまで知恵があるとは、この世界末恐ろし…。
(突如響くブザーの音)
エルドM:な、なんだ!?急に!?まさか…例の【人間狩り】ってやつかよ!?…俺、【人間狩り】なんてしたくないんだけど。だって俺元人間だぜ?
シルフィ(放送音声):人間狩りの時間だ!諸君らは、ただちに武器を構え、出撃せよ!今回の出撃場所はナラーシ村だ!あそこは弱い人間ばかりだが、レジスタンスが警備している可能性が高い!警戒体制は決して下げることのないように!以上!
エルド:武器ってなんだよ…って、これか…。
エルドM:俺の部屋に置かれてあった武器は、ショットガン。二等兵とかって安っぽい武器じゃないのかよ…俺、銃とか扱ったことないし…!
エルド:クソっ…!
エルドM:俺は銃を取って、基地らしき場所を出た。
エルドM:とりあえず、他の人について行った結果ついたナラーシ村だったが、軍の偵察部隊によって荒らされていた。あれは…レジスタンスなのか?黒い軍服を着た動物が偵察部隊と戦っている。
モブ(ヴィゼル役が言う)
アニマ公国よ、永遠に続く王国であれ!
モブ(全員で)
おーっ!!
エルドM:一斉に駆け出す軍隊。そうか、俺がいるのはアニマ公国軍って言うんだな。ってか、こんなボロボロなのに襲う必要あるかよ…。もう人間には立ち向かう術はないはずだぞ?
人間(ポチ役が言う)
…俺たちは何もしてないんだぞ!?悪いのはレジスタンスだ!俺たちを殺しても意味なんかない!
ヴィセル:…何が意味などないだ。同族嫌悪をしても始まらんぞ人間。【アニマの悲劇】と同じ苦しみを味わってもらう。…散るがいい。
エルドM:そこに現れた白き毛並みを持った…ホワイトタイガー。動物とは思えぬ剣さばきで、人間を一斬りする。その姿は、元人間である俺でさえも美しく見えた。
ヴィセル:早くしろ、新兵。偵察部隊がレジスタンスと対峙している今が好機。人間を、1人残らず滅するぞ。…スナイプでもしてみろ。ショットガンだ。威力は十分にあるはず。
エルドM:そういうと、ホワイトタイガーは他のところへ加勢していった。俺は、ショットガンを構え、トリガーに手をかける。運がいいのか悪いのか、目の前には人間がいた。スナイプじゃないけど、いけるかもしれない…!!
人間(シルフィ役が言う)
お、お願い…私たちはなんの関係もないの…!見逃して…!【アニマの悲劇】って…何なの…!
エルドM:…くっそ。いざ、人間を目の前にすると、怖くて、撃てねぇ。ショットガンを持つ手が震える。トリガーにかけた指が震える。間違えて撃ってしまいそうだ…。体全身ガクガク震えている。
人間(シルフィ役が言う)
い、いやああああああっ!!!
エルド:あっ!待て!
エルドM:言葉ではそういうものの、体が動かないのだ。逃げる人間を追うことが出来ない。…後ろから声がかけられる。どこか軽はずみな声が。
ポチ:…あれ〜?アニマのクズが人間を見逃すなんて…これってなんかの事件ッスよね、事件ッス!
エルド:うるせぇっ!お前は誰なんだよお前は!!
エルドM:無性にイライラしていたのか、声がやたらとでかくなってしまった。幸いここには人間がいないため、アニマ公国の軍人が来ることは無い。
ポチ:オレッスか!俺はポチッス!見てもらってわかる通り…レジスタンスの動物なんスよ。
エルドM:ポチとか名乗る小煩い犬っコロは、黒い軍服を着ている。レジスタンスで間違いないはず。
ポチ:あ、わかると思うッスけど…ポチは本来の俺の名前じゃないッス!偉大なる人間様が下さった、ありがたーい名前、「洗礼名」なんスよ。
エルド:洗礼名…お前はそれでいいのか?ペットみたいな名前で…本当にいいのか?
ポチ:だって!人間様はなんでもくれるんス!欲しいと思えばなんでも!その代わり、あんた達アニマのクズから人間を救ってくれとは言われてるッスけどね…高くつくらしいんッスよこの代償は。
エルド:なるほどな…用心棒見たく扱われてること、悔しいなとか思わないのか?…ペットみたいな名前で呼ばれて、人間に従順で…意思がないのか、お前達は?
ポチ:アンタ、前人間だったんスか?
エルド:はっ!…えっ?ち、違うぞ!俺はエルド二等兵!アニマ公国軍所属の黒犬の軍人だ!
エルドM:そう言って俺はショットガンを構える。今度は動物。さっきみたいに震えることは無い!!
ポチ:だって?言ってることが食い違ってるから。動物にだって自分の意思はあるッスよ。なんかさ、人間って、動物には自分の意思はないって思ってるらしいからさ〜。だから、人間は俺たちを「雇う」ことを「飼う」って言うんッスよ?
エルドM:ポチの言葉は、元人間の俺に深く響いた。
確かに、動物にだって意思がある。しかし、悪質な人間は勝手にペットを染めたり、虐待しようとする。動物は人間と同じ言葉が発せないから、悪質な人間は許容したと勘違いする。そうして悪循環が、続いていく。俺は銃を下ろした。
ポチ:お!下ろしちゃうんッスね!やっぱりアンタ、人間ッスよ!否定できない正直者なんスね!なんか俺達の見てる人間らしくはないッスけど。
エルド:アンタの見てる人間は…そりゃ偽善者だらけだろうよ。だって、アンタを「家畜」扱いしてるわけだからな。でも、こんなに動物な俺を、なんで、人間だなんて言えるんだよ…。
ポチ:アンタが、人間を見逃したからッス。単純。
エルドM:そういうポチは、微笑んでいた。口が裂けるくらいに。俺は恐怖を覚え、基地へ逃げだす。
ポチ:あっはははは!アンタ、良かったらレジスタンスに来ないッスかー!人間を殺す必要なんて無くなるんスよー!居心地は悪いかもッスけどー!
エルドM:俺はヤツの声に耳など傾けもしなかった。ヤツの声を聞くだけで、俺が、狂ってしまいそうだったから。
シルフィ:…エルド二等兵!貴様、どこで道草を食っていた!人間の殲滅はとっくに完了していて、レジスタンスも引いた。まさか…サボっていたわけではあるまいな?戦闘が怖くて、逃げていたのではないよな?
エルドM:それは少し…あった…とは言えないから。事実だけでも言っておくとしようか。
エルド:自分は、レジスタンスの兵士「ポチ」と交戦しました!意味深な発言ばかりで、戦いの気を逸らしては来ました!…しかし、逃げられました。
シルフィ:なるほど…レジスタンスと交戦していたと。しかし、敵の言葉に気をひかれるようでは軍人失格であるぞ!覚えておけ!…それに、ヴィゼル元帥閣下から、人間を殺すことを躊躇ったと聞いている!…そんな不届き者には仕置が必要だな!よし、貴様はヴィゼル元帥閣下の部屋の掃除を命ずる!貴様に拒否権などない!よいな?
エルド:はっ!アニマ公国に栄光あれ!
(シルフィ、去る。エルドは思う。)
エルドM:くっそ…。よりによりって元帥閣下の部屋の掃除なんて…。まぁ、したくないことをさせられるのが仕置だし、仕方ないんだけどさ…。俺はすぐさま元帥閣下の部屋に行き、扉を叩く。
エルド:エルド二等兵であります!シルフィ准将閣下の命により、元帥閣下の部屋の掃除をしに参りました!
ヴィセル:…入れ。
エルド:はっ!失礼致します!
エルドM:そう言って俺は、扉を開ける。そこはあまりにもシンプルで、こじんまりとした部屋だった。もちろん装飾は煌びやかで、机の上には花の刺してある二つの花瓶が一つずつ端っこにおかれている。目の前には、ヴィゼル元帥閣下がいる。
ヴィセル:何をしている。掃除をするならすると良い。邪魔なら私は急いでこの部屋を出るのだが。
エルド:いえ!机周りの清掃の際にお声かけします!その時までゆっくりしていてください!元帥閣下!
ヴィセル:いや…やはり、私が出ていく。せっかく掃除したのに、私が動いて汚れるのは嫌だからな。責任はこれ以上持ちたくはない。では、終わり次第声をかけてくれ。待っているぞ、エルド二等兵。
エルド:はっ!…元帥閣下の仰せのままに!
エルドM:やべぇ…待たせるなんてやべぇぞ俺。これがシルフィ准将にでもバレたら、もっと酷いお仕置きが…ってあ!バランス崩した!
エルド:うわああああああああっ!!!
(机にぶつかる。振動で花瓶が落ちて、割れる。)
エルド:…いててっ。って、え?あああああああ!!
(外で待つヴィゼル。エルドの叫びを聞く。)
ヴィゼル:うるさいな。何かが割れる音がした…いや、待てよ?あのガラスが割れたような音は…よし。
(エルドに視点がもどる。)
エルドM:ヴィゼル元帥閣下が大事にしてた花瓶割っちまった〜!!どうする俺、なんて言おう!?と、とりあえずモップで漏れた水を拭き取って。
エルド:ああ、あああっ!うわー!わわわ!
ヴィセル:うるさいぞ!何事だ!
エルド:あーっ!げ、元帥閣下!これはその!アレでして…実は、花瓶…を割って、しまいまして…。
エルドM:あー!終わる!俺の人生犬になって終わっちゃったよ!さよなら!俺!俺俺俺!!
ヴィセル:…良かった。貴殿が割ってくれたおかげで、あのセンス悪い花瓶を毎度見ずに済んだというのだ。…シルフィ准将、奴は見栄えを良くしようと花瓶を渡してきたのだ。私は花を見るのは好きではないから、いらないと断ったのだが…。貴殿が割ってくれればシルフィ准将は二度と花瓶を持ち寄らないだろう。花は嫌いだ、咲いてすぐに枯れてしまうから。あの、私たちを平気で裏切ったレジスタンスのように…!!
エルド:あ!え、ええっと!つまりは、自分に責任転嫁が出来て良かった、ということでありましょうか!それであれば、良いのですが…。ヴィゼル元帥閣下が無事であれば、私は快く仕置を受け…。
ヴィセル:良い。今回は私が責任を取る。私の個人的なことでお前に負担をかけたくはない。それに、私からも頼みたいことがある。貴殿はそっちに集中してくれ。
エルド:はっ!…元帥閣下、依頼とはどのようなものでしょうか!自分に拒否権はありません!何事でもお答えいたします!
ヴィセル:お前と同じように、今回の人間狩りで、人間を殺せなかったやつが一人いる。ソイツとの対談をしてきてほしいのだ。…シルフィから仕置を受けるよりは楽な仕事だぞ。いいか?部屋のドアにかけられている看板は「チェルシー」とかかれているところに行け。チェルシーは中尉職に就く、黒猫の女だ。くれぐれも敬意を欠かさぬように。
掃除などあとで良いのだ。…おや、シルフィか?
エルド:はっ!それでは、失礼致します!また、元帥閣下の部屋をお掃除させて頂きます!
(エルド、去る。シルフィ、来る。)
シルフィ:…失礼致します、元帥閣下。って!これは!?…はぁ、新兵が。…元帥閣下。お怪我はございませんか?…全く、これは仕置が必要ですね。私が彼の面倒を見ることがどれだけ大変なことか…。もう、彼を見捨ててでも…!!
ヴィセル:まぁ、待て。これは私がやった事だ。大体、いらないと言ったのに貴様は!センスがなっていない 花瓶と花を無理やり押し付けて!花に意思はない!…そして、枯れていくのだ!…人間に従順にされたレジスタンス共のように!!!
シルフィ:しかし…この部屋の見栄えは良くしなければなりません!そのことを考えて!私は花瓶と花を送ったのですよ!?…それがどうしてそう言うお話に!!
ヴィセル:とにかく、もう二度と花は送るな。反吐が出る。戻りたまえ、シルフィ准将。
シルフィ:…はっ。
(シルフィ、去る。)
シルフィM:エルド二等兵…雑兵が。こうなったら貴様をとことん駒のように使ってやる。なんだか、奴を見ているだけで私が軽視されている気がする。搾取搾取!私は准将だぞ!特権を持っているのに、使わないのは宝の持ち腐れと人は言うのだろう!?ならば使って見せよう!その特権を!!
シルフィ:フフッ、フハッ、フハハハハハハハッ!!
エルドM:はぁ…。ヴィゼル元帥閣下。いい人だったな。アレは確かに、俺の責任なのに。ま、運が良かったってことだろう。さて、チェルシー中尉を探しますか。部屋は…あ!ここか。俺はチェルシー中尉の部屋の扉を叩く。
エルド:自分は、エルド二等兵と申します!チェルシー中尉殿、今お時間はございますか!…ヴィゼル元帥閣下の命により、対談に参りました!
チェルシー:…入って。とっとと済ませましょ。そんなくっだらない対談。
エルドM:え!今この人、じゃない動物はくっだらないって言ったぞ!?ヴィゼル元帥閣下の命であるにも関わらずくっだらないと吐き捨てたぞ!?
エルド:はっ!失礼致します!
エルドM:入ってすぐに見えたのは黒い毛並みが美しい、赤目の黒猫だった。白い軍服とのコントラストがとても美しく、見とれてしまいそうになる。
チェルシー:なにボーッとしてんのよ。話しに来たんでしょ。早くしなさいよ、あ、こっちの椅子使っていいわよ。座った方が話しやすいでしょ?
エルドM:そういうとチェルシー中尉はすぐに空いている椅子を差し出す。遠慮せず俺は座った。
エルド:はっ!ありがたき配慮!失礼致します!
チェルシー:…ふぅん、アンタも人が殺せなかった…ね。
エルド:お恥ずかしながら。おかけで、ヴィゼル元帥閣下の部屋の掃除を、シルフィ准将閣下に命じられてしまいました。…誠に、自業自得であると存じております。チェルシー中尉殿は何故…人を殺すことが出来なかった…と。
チェルシー:…アタシ、には無理だったのよね。なんて言うか、動かないのよ。アタシの武器って二丁拳銃だったの。いざ、人に構えたら震えが止まらなくなって…トリガーに指をかけてるから、暴発しそうになって、でも体が震えて…なんて言ったら。
エルド:分かります。自分も同じでしたから。そうしたらポチとかいう奴に言われたんです。お前は前、人間だったんだろ…って。
チェルシー:…えっ!?アンタ、元人間なの!?
エルド:ち、違います!…言われただけです!!決して!人間っぽいと言われたというか…今のは、言葉のあやっていうか…。
エルドM:やばい!言わなくていい事まで言っちまった!同じ境遇だからって相手も同じなんだろうなって考えてしまった!…言葉を優先する前に、じっくり考えろ俺!この動物社会でそんなこと言ったら死ぬだろ俺!アニマ公国軍は人間許さねぇって言ってるのによぉぉぉぉ!
チェルシー:…ア、アタシもだよ。元人間。名前、わかる?…アタシとおなじ境遇なら、名前も覚えてるはずなんだけど…って!何焦ってるのよ!アタシはアンタが人間でも殺すことなんかしない!言って!アンタ!名前は!
エルド:…菜山ヒロキ。高校二年生ですよ。
チェルシー:菜山ヒロキ…!!アンタ、真柳コトって知ってる!真柳コトはアタシの友達!で!アンタのことを知ってるのよ!…アンタが、菜山ヒロキ。
エルド:知ってるんですか!!…というより、あなたも名前を名乗ってください!…は!ぼ、防犯カメラは!?この部屋に、防犯カメラは!?
チェルシー:ないない。プライバシーまで捨てろ、とか言われたらアタシも軍人辞めたくなるわよ。それに、そういうところケチるからスパイが巣食うのよ、って…はっ!な、名前よね!ごめんなさい!…アタシは後藤アヤハ。大学一年生。コトとはゲーセンで知り合ったの。そっから、アンタの話を聞いた。菜山ヒロキ。まさかあなたも、無限階段を下らされたとか?
エルド:違います!俺の場合は、側溝にハマった猫を助けようとしたら…謎の重力で引っ張られて、底のない側溝の中へ落ちていったらこうなってました。っていうか、無限階段ってことは、階段に終わりがなかったってことですよね。
チェルシー:…そう。私の家、地下にあるからさ。ちょっと特殊な作りなのよね。で、おかしいと思った時点で戻るべきなんだろうけど、下る度に上の階段は消えていくのよ。そうしたら、逃げ場ないでしょ?…で、こうなったってわけ。
エルド:なるほど。んで、どうするんですかこれから。ヴィゼル元帥閣下は人間を酷く嫌っています。だから、どうにかして、誤魔化して報告しないといけません!どうしたらいいですか、アヤハさん!
チェルシー:…私たちが同じ境遇であるということを伝えなさい。そして、アニマの悲劇で襲われた時に、人間を見て恐怖に打ち震えたことがあり、人間を目にするとそれがフラッシュバックして、人間を殺せなくなるんです。っていえばいいと思うの。
エルド:アヤハさん、頭いいな…。分かりました!…それじゃ自分はここで。
チェルシー:待って。エルド二等兵、いやヒロキくん。アタシと二人きりの時だけは、「チェルシー」って呼んで、あとタメで話して頂戴。さすがに人間名を呼んだり、周りに動物がいる前でタメしたりはまずいけど…だからと言って敬語だらけの軍人生活は息苦しいもの。そうしてくれると嬉しいわ。
エルド:わ、分かった!ありがとう、チェルシー!じゃ俺はこれで失礼!…また会おうな!
(チェルシー、去るエルドを見送る。)
チェルシー:…ふっ。まさか、私と同じように元人間の動物がいたなんてね。心強い。こんなクソッタレな世界。早く抜け出したいわよ。動物が人間を殺すこんな物騒な世界。…はぁ、母さん、父さん。早く会いたい。
(ポチ、人間へ戦績報告をする。)
ポチ:…え?俺!俺は、アニマのクズを15匹くらい殺してきたッスよ!まぁ、後半敵とだべってたのはいけないことですけど!褒めてくださいッスよ!…え、二等兵のポチNo.26が戦績残せず、食処分だって…それ、ホントッスか!?…まぁ、人間様を守れなかった奴なんか【家畜】にすら満たない、アニマのクズと変わりない存在ッスからね…。…んでんで!報酬はいかほどに!?…うわー!…ハハッ、ハハハハハハッ!…ポチNo.26の肉ッスか。俺がクズの肉なんか…ん?これが弱肉強食だ?喜んで食えって?…そういうことッスか!コイツがクズだから、強者である俺が食っていいってことなんスね!…人間様、万歳ッス!!
ポチM:動物が人間を殺す、そんな【形勢逆転】が、レジスタンスにはあってはならない。無論、その【形勢逆転】がアニマ公国軍であり、アニマのクズどもである。…アニマのクズどもには分からないッスね。この、弱者を喰らう強者の愉悦が!ヒヒヒッ…アッハハハハハ!!!
シルフィ:次回予告だ。エルド二等兵は、ヴィゼル元帥閣下への報告を済ませ、第2の人間狩りを待つ。その時に、奴が現れる。奴はこの私ですら手を焼く人物である。さぁ、奴の思惑を新兵は知ることが出来るのか!?まぁ、出来ないだろうな!
ヴィセル:次回、「仏面獣心」。人よ、我らの牙に震えろ!