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第3話「吠影吠声

※規約に関しましては「にぼしの声劇台本」利用規約ページをお読みください。台本の最後に添付してあります。


菜山ヒロキ(エルド二等兵)

♂ 16歳。(動物年齢3歳)

動物を好く心優しき青年。

異世界突入後は黒犬のエルド二等兵になる。

後藤アヤハ(チェルシー少尉)

♀ 19歳。(動物年齢4歳)

黒髪姫ロングが特徴の女性。

異世界突入後は黒猫のチェルシー少尉になる。

メアリー軍曹

♀ 動物年齢6歳。

下手に回るのが得意な清楚系アリクイ。

噂によりレジスタンスのスパイとして疑われる。

ヤハム大佐

♂ 動物年齢9歳。

計算高き策士。語尾に「〜です」をつけるヘビ。メアリーをスパイだと思わない人物。

シュタイン少尉

♂ 動物年齢14歳。

神父になりたがった心優しき?ホルスタイン。

人間全員が悪いわけではないと考えている。

何考えてるかわからないおじさん。

シルフィ准将

♀ 動物年齢13歳。

細かいことにうるさいウサギ。

とにかくグチグチうるさいおばはん。


ヒロキ(エルド二等兵):

アヤハ(チェルシー少尉):

メアリー軍曹:

ヤハム大佐:

シュタイン少尉:

シルフィ准将:


エルドM:俺たちは、レジスタンスに襲撃された。そこで真柳コトこと、キャロライナ中将とポチに出会った。コトは俺たちの大事な仲間だから俺たちに協力してくれと頼んだが、彼女は断った。それどころか、俺たちを哀れんだ目で見てくる。どうして、俺たちが偽善者だと思われなければならないのか。


シルフィ:…レジスタンスのメンバーを一人も拘束出来なかったか。情報を吐き出させるチャンスだったのに。

ヤハム:…彼らはなかなかにいやらしい方々です。そのことは准将閣下もご存知のはずですね?

シルフィ:そうだが…今回の件で厄介なことが起きてしまった。逆にチャンス、とも言えるか…。

ヤハム:厄介なこと=チャンスとは一体何です?

シルフィ:…今回のレジスタンス奇襲に紛れて、レジスタンスのスパイが潜入に成功してしまった、と。偵察部隊が情報提供してくれたようだ。

ヤハム:…スパイ、ですか。准将閣下なら、自分の管理する部隊のメンバーくらい知っていて当然なのではないですか?…知らない奴がいれば、ソイツがスパイ確定なのは間違いないです。

シルフィ:いや、私の部隊じゃない。…マチソンのとこの部隊にいるらしいが…この情報は確かではない。…ヤハム。エルド達の調査をしろ。スパイの仲間である可能性がある。…入念にな。

ヤハム:まさか…准将閣下、自分の部隊に敵がいるとおありです?

シルフィ:…こんな簡単にスパイが入れたんだ。長年潜入しているスパイもいるだろう。私はマチソンに話を聞くことにする。…検討を祈るぞ。

ヤハム:はっ!…准将閣下。


ヤハムM:…シルフィ准将は、自分の部隊を何よりも信じているはずですが?…何かおかしいです。…最近やたらとエルドさんたちのお話をしますです。…聞いてみるとしましょうか、彼らに。

(ヤハム、エルドの部屋の戸を叩く。)

ヤハム:エルドさーん、いらっしゃいますです?…いないようです。後でお話を聞くです。 


エルド:なんか…ここの食事って美味しくないですよね、少尉殿が口にしていいものでしょうか?

チェルシー:いいのよ。少尉なんて大した位じゃないんだから。…レストランじゃないんだし、期待するだけ無駄よ。…ん?あっちが騒がしいわ。

モブA(シュタイン兼任):手を上げろ!このスパイめ!

モブB(シルフィ兼任):貴様!今までこの隊にいなかったな!レジスタンスのスパイか!

メアリー:ま、待ってくださいよぉ。どうしてそうなるんですかぁ。

(モブ隊員に囲まれるメアリー。)

エルド:…なんか、見たことない人ですね。なにかしたんでしょうか?

チェルシー:…本人に自覚はないみたい。可哀想だから、話だけでも聞いていきましょうか。

エルドM:困っているならほっとけない。ましてや冤罪なら軍人の恥。自分の隊に泥は塗りたくは無いものだ。心配になった俺たちは、軍人に声をかけてみる。

エルド:し!失礼します!自分は、エルド二等兵であります!…無礼を申すこと承知の上でお尋ね致しますが、彼女がなにかなされたのでしょうか?

モブA:二等兵風情が!貴様には関係ないことだ!失せろ!

チェルシー:…なら、この私、チェルシー少尉ではお聞き願えないでしょうか?…ここ数日で罰を受けた身ではございますが、そこの二等兵よりは信頼できるとお見受け致します。

モブB:どうする?

モブA:たかが少尉だ。コイツに話すわけにも行かん…。

エルドM:俺達には何も話す気は無いらしい。俺たちが肩をすぼめ、諦めかけようとしたとき。

ヤハム:…君たち、メアリーくんに何をしているです。拘束を解くのです。でなければ、君たちの処罰がどうなるか…お分かりです?

エルドM:偶然というかなんというか、蛇の軍人が通りすがりで声をかけた。モノクルをつけており、知性的な雰囲気を漂わせている。

モブA:ヤ、ヤハム大佐殿…。…ここは引きましょう!

モブB:彼を敵にするとろくなことが起きない!

エルドM:よくある感じで、隊員たちは逃げていく。俺たちは、当の本人から話を聞き出すことができるようになったのだ。

メアリー:ヤハム大佐殿!…こ、この度はぁッ!ありがとうございますぅッ!えっとぉ、私、この隊に来るのは、は、ははっ、はじめてでぇッ!

ヤハム:落ち着いて話すです。…スパイ騒ぎが私のところまで流れてきたです。…えっと、君たちがエルドさんとチェルシーさんです?…どうもどうも。シルフィ准将閣下のお膝元?というべきです?…ヤハム大佐、と申しますです。

エルドM:…名乗られた時、ぞっとした。この動物も、俺が自分と出会うのが初めましてであるかのような態度だったからだ。今度は騙されない。シュタインさんみたいに、見かけで信じない。

チェルシー:…チェルシー少尉であります。そちらの方は…すみません、当人を目の前にして名前を思い出せず…。無礼をお許しください。

メアリー:いいですよぉ、私も来たばかりなんでこれから名前覚えてきましょぉ。ね?あ、自分はぁ、メアリー軍曹と申しますぅ。あ、チェルシー少尉殿は格上のお方でしたねぇ。すみません〜、自分この空気にまだ慣れてないんですよぉ。

チェルシー:…あ、ああ、よろしくお願いします。メアリー軍曹。

エルドM:独特な、こう、鼻に突っかかるような喋り方。…この人が異動になったのも分かる気がする。アヤハさん、こういう性格嫌いそう。

ヤハム:では、教えてくださいますです?…事の真相、全ての始まりを。

メアリー:それがですねぇ、レジスタンスのスパイの件ですがぁ、私がその一人だと思われてるみたいなんですよぉ。…わたしぃ、このとおり見かけない顔ですしぃ。…ここに異動だって言ったの、マチソン准将閣下なんですよぉ。

ヤハム:…マチソン准将閣下です?…なるほどです。…実は、シルフィ准将閣下が、マチソン准将閣下の部隊にスパイがいるとお話していたです。だからこそ、怪しまれるのは当然かもです。

エルド:…ヤハム大佐殿は、容易に情報を語る御方なんですね。

ヤハム:…状況を理解出来ていない方にお話しても問題ないことは、ちゃんと承知しているです。で、メアリーさんは、覚え、ないです?

メアリー:はいぃ。マチソン准将閣下の隊にスパイがいる話は私も知ってたんですけどぉ、まさか疑われるとは思ってなかったのでぇ。エルドさん、チェルシー少尉殿、声をかけてくれて私は嬉しかったですよぉ。

チェルシー:まぁ、なんか困ってそうだったから助けようとしただけだけどね。…メアリーさん、アリバイを証明するために、情報収集をしませんか?…私も、エルド二等兵も参加するので。

エルド:…まぁ、またメアリーさんが囲まれたら危ないですからね。ヤハム大佐殿がまた来るとは限りませんから。…情報を手に入れて、シルフィ准将閣下に報告した方が良いかと。マチソン准将閣下の部隊の方からもお話を聞いた方がいいかもしれません!…ヤハム大佐殿、ご協力願えますでしょうか!

ヤハム:…承りましたです。メアリーさんは私も信頼できる方だと信じていますです。ただ、シルフィ准将閣下の動向が不安です。…はっきりしないのです、彼女が何を考えているのか。報告は、ヴィゼル元帥閣下にした方が良いです。シルフィ准将閣下に知らせてはなりません。

エルド:…シルフィ准将閣下が?いや、確かにあの人は厳しいですけど…そのようなことは…。

ヤハム:実は、シルフィ准将閣下が…みう

シュタイン:やぁ!エルドくん!お昼休みもうすぐ終わっちゃうよ!

エルド:…!!!

チェルシー:…!!!


エルドM:声に聞き覚えがある。アイツの声だ。シュタイン少尉だ。…その笑みに隠された性を、俺は知ってしまった。…食堂は静まり返り、時計の針の音が等しく鳴り続けるだけだった。


第3話「吠影吠声」: 概要

シュタイン:…あ、メアリーさんだ、どうもこんにちは。シュタイン少尉です!チェルシーさんとは同位だよ。…よろしくね。

チェルシー:なにがよろしくね、よ。エルドを売ろうとしてたくせに。彼の素直な気持ちを弄んだのはアンタなんでしょ。まぁ、なんか失敗に終わったみたいだけど。…いい気味だわ。

シュタイン:…ん?なんのこと?

エルドM:…さすがだ。メアリーさんとヤハム大佐がいることもあって、焦りを見せない。でも、その裏を知っている俺たちからすれば、その微笑みは狂気だ。シュタインは、俺が人間であるということが分かっているから、売ろうと思えば売れる。しかし、証拠がない。どうやって俺を売ろうとしていたのだろうか。

シュタイン:…細工する隙なんてなかったのに。…君も運がいい人だね。ラッキーボーイさんだ。

メアリー:あ、あのぅ…シュタイン少尉殿…。あなたはぁ、噂になってるスパイの件、誰だと思っておりますかぁ?…私は、スパイがいるなんて、噂で終わって欲しいものなんですけどぉ。皆さんには仲良くなってもらいたいのでぇ。

シュタイン:…ん?僕は君だと思ってるよ、偽善者さん。

ヤハム:…シュタイン少尉!確かに、メアリーさんはマチソン准将閣下の部隊から来たばかりです、しかしそれだけで疑ってはいけないことも分かっているはずです。なぜ彼女だと言えるです。

シュタイン:…この人、どーしようもないクズだもん。メアリーさん、僕ね、知ってるんだよ。【アニマの悲劇】を起こしたのは実質キミだってことをね。面白そうだから。そういう理由でキミは嘘を吹き込んで戦争を引き起こしたんだ。もともとマチソン准将閣下の部隊は問題をおこすことがほとんどだからね。偏見で見られてもしょうがないよ。でも、メアリーさん。キミは本当にどうしようもないクズ。…僕の夢を潰してくれちゃったんだから。許されるなら、ここで殺したいよ!

ヤハム:止めるです、シュタインさん!あなたこそ落ちるところまで落ちたのです!?…ヴィゼル元帥閣下がおっしゃってましたです。「最近、シュタイン少尉の様子が変だ。」って。エルドさんを嫌っているのではないかと相談が来たです。

シュタイン:…なに!?関係ないじゃん!大佐殿には関係ないことなんだよ!君が関わる必要なんてない!…はぁ、はぁ、はぁ…!!

メアリー:…く、クズって、私ぃ、何もしてないですよぉ。【アニマの悲劇】を起こしたなんて、そんな大罪背負ってまでぇ、ここ来ることないですよぉ。逃げたなんて知れたらリスク高くなるの自分なんですからぁ。

シュタイン:キミはそういうことを平気でやってのける子だよ。だから恐ろしいんだよね、キミ。あれぇ?ここら辺にいるって、みんなに言っておいたはずなんだけど…いなくなってるよ…。

メアリー:!!!???

シュタイン:言ってなかったけ?キミ、うちの隊じゃ指名手配になってるから。【アニマの悲劇】の黒幕さんがノコノコと生き残ってることを知ったら、みんな捕まえるのに躍起になっちゃって。可愛いよね、でもキミは全然可愛くない。…僕が思ってるように動かないんだもん。

メアリー:…エルドさぁん、チェルシー少尉殿…。この人怖いです。【アニマの悲劇】を起こしたらそもそもこんなところ来ませんからぁ!!

エルドM:恐ろしい。何が恐ろしいって、シュタイン少尉が何を言っているのか分からなくなってきたことだ。俺を売ろうとしたり、メアリーさんを始末しようとしたり、何が彼を動かしているのだろう。"狂気"や"エゴ"で済ませられたらどれだけ楽なものだろうか。身震いしながら、この状況を見届けていた。

チェルシー:…正気じゃないわよコイツ。メアリーさん、一旦離れましょう!

ヤハム:私が引き付けておきますです。…エルドさんとチェルシーさんは、メアリーさんを逃がすです!

エルド:はっ!

チェルシー:メアリーさん、こっち!

メアリー:…はいぃ、ありがとうございますぅ。


ヤハム:シュタイン少尉…アナタは一体何をお考えです?…不気味すぎて次の言葉が出ないです。

シュタイン少尉:う、うん?ヤハム大佐殿だって考えてることわからないよ〜。お互い様だね。

ヤハム:…立場を弁えるべきです。いいです?メアリーさんをなんの根拠もなくスパイ扱いしたり、【アニマの悲劇】の黒幕などにしたりしてはいけないです。そういうからには何かしらの証拠を提示して頂かないと困るです。いいです?

シュタイン:証拠?証拠ならあるよ!?でもね、盗られちゃったんだ。だから、スパイがいることは確かなんだ。っていっても、本人が証拠隠滅しようとしてるだけだからこれ以上僕は捜索する気なんかない。メアリーさんから聞くことにする。 

ヤハム:…よっぽど、その証拠に自信がおありなのです。仕方ないです。謹慎の身なら、尚更基地内で動かれてしまうです。…覚悟を決めろです。

あなたのしたことは冤罪を生み出すことです。

シュタイン:もし証拠が手に入って、それにメアリーさんがなにか関わってる、って分かったら?

ヤハム:その時は私が覚悟を決めるです。…まぁ、彼女に限ってはないと思いますです。

シュタイン:信頼してるんだね。メアリーさんのこと。

ヤハム:…シュタイン少尉。いくつになっても、あなただけは好きになれないです。…その余裕な笑みから予想できる表情は計り知れないです。

シュタイン:だから、わかってもらわなくていいって言ってるじゃん。君も物分かりが良くないとこ、治んないよね。…なんでも知りたがる。

ヤハム:でも、こうしてあなたとぶつかりあったのは初めてです。…なぜ、今まで対立したことがなかったのです?

シュタイン:…ただ利害が一致してたからじゃないの?…知らないけど。さぁて、どう大佐殿を処理しようかな。…まさかメアリーさんのことをすきだとはおもってなかったからなー。

ヤハム:な、何憶測を立てているです。私は異動したばかりのメアリーさんを信じてるだけです。それに、シュタイン少尉だってつかれてはいけないことがあるはずです。

シュタイン:弱いなぁ、弱すぎるよ大佐殿。…だってさ、メアリーさんの話したら急に弱気になるじゃん。策士でしょ〜そういうことだけで弱るのはいけないんじゃないのかな〜ッ!!

ヤハム:"だけ"って…!私にとって、メアリーさんは…!!メアリーさんは…ッ!

シュタイン:あはははははっ!馬鹿みたいに弱くなっちゃった!ヤハム大佐殿はメアリーさんに弱い、と。…大佐殿は色恋沙汰で弱りまーす!

ヤハム:…あまり、バカにするなです。貴様は少尉で私は大佐。先程から申しているです。立場を弁えろと。いい加減にしないと、どうなるか私にもわからないです。

シュタイン:ん?反撃したいならしてみなよ。君も謹慎の身になりたいんだったらね!

ヤハム:…!!

ヤハムM:メアリーさんは、私の進路を決めてくださった大事な方です。私の人生を…私がどうしたいか、を理解してくれる数少ない方です。それを、シュタイン少尉の煽り材料にされたくないです。…そのためには、私が冷静になる必要があるのです。でも、何故か私は挑発にのっているです。シュタイン少尉の言ってることは私の思ってることと少し違うです。いや、むしろそれが苛立ちを起こすです。メアリーさんは相談相手。恋愛方面で相手になんかしたくないです。気持ち悪い。腹立たしい。私は、彼女のことを"恋人"だなんて思わないです。…そうです。私は私を支持してくれる"道具"が欲しかったんです。メアリーさんは私の数少ない"道具"なんです。だから、メアリーさんを"恋人"だと思われたことに腹が立ったんです。理解したです。だから、メアリーさんは、私の"道具"としてとても大事な方なんです。

シュタイン:どうしたの?急に黙って?…つまらないよ、そうやって何も反論してこないのさぁ!

ヤハム:…ふふっ。シュタイン少尉、ここは一時休戦に持ち込むです。次はこうはいかないです。私を愚弄したことの罪は重いです。あとで、喚く準備でもしておくべきです。

シュタイン:いーよー?まぁ、喚くことなんてないと思うけどね!!…お疲れ様!アニマ公国に栄光あれッ!!(投げやりに)

ヤハム:はいです。アニマ公国に栄光あれです。

第3話「吠影吠声」: 概要

メアリー:…こ、ここまで来れば大丈夫…ですかぁ?ちょ、ちょっと疲れちゃいましたぁ…。

エルド:大丈夫ですね。にしてもなぜシュタインはメアリー軍曹殿を始末しようとしているんですか…?

チェルシー:…マチソン准将閣下のところにスパイがいるって話だけで決めつけるのもアレよね。どうしてこうしようと思ったのかも不明すぎるわ。シュタインは少尉だし、権限薄めのはずなんだけど、なぜ部隊を動かせたのかしら。

メアリー:他の隊員よりも年上…だからでしょうかぁ。でもぉ、年功序列で動くようじゃぁ、軍隊の意味ぃ、ないですもんねぇ。

エルド:シュタインの属する部隊は一体何を考えてるんだ…普通は受け入れるべきだろう!見たところ何もしそうには見えないし…。

チェルシー:私たちだけが、マチソン准将閣下の部隊を知らないだけなのかも…。メアリーさん、何があったかだけ教えて貰える?メアリーさんが疑われる理由が見つかるはずだから。

メアリー:あ、はい…。マチソン准将閣下はぁ、元々面倒見のいい方なんですぅ。でもぉ、そこの部隊の隊員がいつも問題を起こすんですぅ。何故かって言うとなんですけどぉ、その部隊は、問題を起こしかねない隊員が入るからなんですぅ。マチソン准将閣下の部隊は危険地帯に踏み込むことが多いので、死んでも損にならない人を入れることが多いんですぅ。

エルド:そんな…。それじゃ自爆特攻隊じゃないか。…やはり、この世界でもそういうことを考えるふざけたヤツがいるんですね。…死んでもいい動物なんて、1匹もいないのに。

チェルシー:…こら!1匹なんて、人間みたいな言い方しないでよ!!

エルド:…あ!は、はっ!愚弄してしまい申し訳ございません!!

メアリー:いいんだよぉ…。一人って、1と人ってことなんでしょぉ?だったらぁ、人間と同等に見られるからやじゃん?みんなぁ、結構「匹」って言われることにプライド持ってるもんだよぉ?

エルド:…でも、それって動物によって、ですよね?

メアリー:まぁね、「一人」とかって「人」を使う動物もいるからねぇ。動物が生きるって難しいことなんだよぉ。意思を持ち始めたのが人間よりも75年も遅いんだってぇ。それが1種のパワハラだって訴える人もいるらしいけど。「匹」の方が愚弄してるって考える人間が許せないんだってぇ。

チェルシー:…とりあえずそれは置いておいて、マチソン准将閣下の部隊が自爆特攻隊ってのは分かった。…問題を起こすのって、自分が自爆特攻隊に入れられたって気づいた時ぐらいからじゃない?…だって、死んでも誰も悲しまないなんて言われたら、私だっておかしくなるよ。問題児なら尚更、更生なんてしないと思うし。

エルド:自爆特攻隊なんて悪い文化、なくなってしまえばいいのに。確かに命懸けで軍に尽くすんだろうけど、死んでも誰も悔やまないなら、自分のいる意味って?ってなりますよ。意味をみいだせなくなるから問題が起こる…負の連鎖ですよ。

チェルシー:…マチソン准将閣下の部隊にスパイがいるんでしょ?だったら、真犯人を探そうよ!アンタ、ただでさえシュタインのいる部隊から狙われてるんだから!改めて答えを聞かせて!

メアリー:私なんかのためにぃ…ありがとうございますぅ…!!うううううう!!!!

エルド:…泣かないでくださいよ。困った時はお互い様です。チェルシー少尉殿だって助けたい気持ちがありますし、自爆特攻隊なんて許せません。

チェルシー:…動物も、人間も、考えることは同じ…か…。これじゃ、なんのために、意思を持ち始めたのか分からなくなるわね。

メアリー:…いきがるな、クソガキ。(小声で)

エルド:…ん?なんか言いましたか、メアリー軍曹殿。

メアリー:な、なんでもないですぅ。そ、それより、たくさんの方から情報を収集しないとじゃないですかぁ。ささっ、行きましょう〜!

チェルシー:…エルド。ちょっと来て。

エルド:あ、はい!


(誰もいない倉庫の中。小声で展開されるエルド、チェルシーの会話。)

チェルシー:ヒロキくん、私たちの周りに、味方なんて誰もいないのかもしれない。

エルド:なんでそんな考えになったんだ?メアリーさん、喋り方はアレだが、優しそうな人じゃないか。…警戒はするけど、シュタインほどにしなくてもいい相手だと思うぞ?

チェルシー:…何か、何かが狂い始めている気がするの。あたし達の周りの何かが。"元人間"の私たちが知らないこと。…恐ろしすぎるわ。

エルド:…ヤハム大佐は!ヤハム大佐はどうなんだ!…メアリーさんのことを大切に思ってる!

チェルシー:大切にしている理由が、とんでもない理由だったとしたら?…レジスタンスも相当イカれてるけど、アニマ公国軍も同じくらいイカレてるのかもしれない。

エルド:…そうか。マチソン准将閣下の部隊という自爆特攻隊があるからな。マチソン准将閣下自体も結構ヤバいやつなのかもしれない…。

チェルシー:とりあえず、メアリーの今後に気をつけて情報収集を行おう。…いいわね?

エルド:…分かった。


メアリー:ふたりともぉー!どこ行ってたんですかぁー!ヤハム大佐殿もいないからぁ、捕まったら終わりだったんですよぉ!うわああん!

チェルシー:メアリーさん、弱虫のフリもうやめたらどう?そんな弱虫で軍人になれるわけないでしょ。

メアリー:…弱虫は軍人になっちゃダメなんですかぁ〜!確かに、敵に立ち向かう勇気はぁ、必要だと思うんですけどぉ…。でも、国のために頑張りたいって思う気持ちはありますぅ!

チェルシー:…うるさい。行くよ、情報を収集したいんでしょ。エルド、早速勝負に出るわ。…私たちのリーダー、シルフィ准将閣下の元に。

メアリー:ええ!?普通他のメンバーから話を聞くんじゃないですかぁ!?…あと、…はっ!

チェルシー:エルドにはともかく、私には下手な口叩けないでしょ。軍曹と少尉。[生意気]なんて、言える立場じゃないんだから。

エルド:チェルシー少尉殿!少し、冷たくありませんか!?…このままでは、メアリー軍曹殿が!

チェルシー:可哀想、なんて言う資格ないんだからね。そんなの、彼女にとって侮辱でしかない。

メアリー:…はぁ、軍の世界は冷たいですねぇ…。そんなもんですよぉ、この世界はぁ。エルドさんはまだ、分からないと思いますけどぉ。

エルドM:…アヤハさん、何を考えているんだろう。まだメアリーさんは謎だらけで、悪い所が分かっていないのに。探りを入れている可能性もあるけど…今は乗っかるしかない。


第3話「吠影吠声」: 概要

(一同、シルフィの部屋につき、チェルシーがドアを叩く。)

チェルシー:シルフィ准将閣下!こちら、チェルシー少尉です!お急ぎの用がごさいます!応答願えますか!

シルフィ:…入るといい。


シルフィ:メアリー軍曹の件だろう。私も知っている。ヤハム大佐に捜査をお願いしているが…。

チェルシー:ヤハム大佐殿は、メアリーさんがスパイでは無いとおっしゃっています。こちらとしても、シルフィ准将閣下の意見をお願いしたいのです。この件について、如何様に思われますか?

シルフィ:…私からは何も言うことは無い。シュタイン少尉の言うことが本当であれば、メアリー軍曹には来てもらってそうそう悪いが、処分も検討している。

メアリー:そ、そんなぁ…。シルフィ准将閣下、聞いてくださぁい。私無実なんですぅ。だから、マチソン准将閣下の部隊から移動されましたし。

シルフィ:…当人の発言は当てにならん。私個人としては何も言う必要はない。あるのか、ないだろ!?私は勝手に押し付けられたんだぞ!

エルド:押し付けられた…ってんな無責任な。この件で"人"の命がかかってるんですよ!

チェルシー:馬鹿!シルフィ准将閣下の前で"人"という発言はするな!

メアリー:…はぁ…。

シルフィ:この軍の奴らが"人"と同等に扱われるのが嫌いだと知っているはずだろう?…呆れた。

エルド:…奴らと同じくらい知力と体力を得た我らこそ、"人"と同じくらい命を大事にされるべき存在なんです!

チェルシー:馬鹿…。

シルフィ:なるほど、では、死ぬべきはずである人間すらも同等に見るのか。エルド、やはりお前は変わっている。人間を大事に見る時点でお前の感覚は狂っているな。

エルド:…ち、違います!そのようなつもりで言ったのでは…!!

シルフィ:…やっぱりお前たちは怪しいと思っていた。エルド二等兵、お前はチェルシー少尉とばかり付き合いがあり、その他の隊員と組んでいる様子が見受けられなかった。…チェルシー少尉とは何かしらあるのではないかと考えていたのだが、やはりその通りか。シュタイン少尉の言うことを信じてもいいのかもしれないな。

チェルシー:…ど、どういうことですか!?

シルフィ:お前たちが元人間であるという可能性だ。ありえないと思っていたが、チェルシー少尉も頻繁にエルド二等兵の部屋に出入りしていて、多くの動物と関係を持とうとしていない。これがどういう意味かは、分かっているのだな?

チェルシー:…!!

メアリー:…ぷっ、ははっ、はははははっ!

3人:…!?

メアリー:だったらこのクソガキ共から始末してよ!アンタがそう思うんならさぁ!!

シルフィ:口を慎め!メアリー軍曹!上官に対し無礼な態度をとっているのが分からないのか!

メアリー:知らねーよ!もうぶりっ子の真似すんのやなんだよ!分かったんならとっとと捕まえろ無能!凄惨に、陰湿に始末してくれなきゃ、あたしのしてきたこと全部報われねぇだろ!?

エルド:…メアリー軍曹殿。あなたまで、私を攻めるんですね。

チェルシー:この前まで自分のこと、「自分」って言ってなかったっけ?

エルド:…それじゃメアリー軍曹殿が責められてるように見えるじゃないですか。

メアリー:そっちこそ口なってねぇじゃねぇの。バカにしやがってよ。いい加減にしてくれよ。はぁーあ、ムカつくんだけど。あの優虎(やさとら)はコイツら始末しねぇし…マジ疲れたんだけど。

エルド:メアリー軍曹殿!あなたは何が目的なんですか!?俺たちを始末したいから、こんなことをしてたんですか!?

メアリー:だっていっつもピッタリくっついてんじゃん。気持ちわりーなって。絶対なんかあるよコイツら、ってさ。色恋沙汰の線は消しても。

シルフィ:…フ、フフッ。そうだな、メアリー軍曹。私もコイツらは「気に入らない」と思ってたんだ。一刻も早く、始末したいな。

チェルシー:…どういうことですか、シルフィ准将閣下。

シルフィ:最初からお前らは気に食わん。エルド二等兵、ヴィゼル元帥閣下の花瓶を壊したのはお前だろ?分かるのだ、ヴィゼル元帥閣下を丸めたのもお前であると。あの御方の2番手は私だ。私の考えを変えようとするやつは嫌いだ。元帥閣下がようやく従じゅ…ゲフンゲフン。私の考えを理解してくださった。それをエルド二等兵が変えたのだ。全く持って不快極まりない。

チェルシー:…エルド、あんたホントに何もしてないのに…。こんなふうにねじ曲げて解釈されるなんて…。そっちの方が不快極まりないですよ!

エルド:ヴィゼル元帥閣下は証拠がないと動きませんよ!シュタイン少尉が既に私を告発しようとしたのですが、失敗に終わっています!なのに、なんの証拠もなしに私たちを始末したい理由って一体なんなんですか!?

メアリー:それはもちろん…。

シルフィ:ひとつに決まってるだろう?

エルド、チェルシー:…!?


(ここのメアリー、シルフィ合わせてセリフ)

メアリー:「気に入らねぇ」から潰すんだよ。

シルフィ:「気に入らない」から始末するのだ。


エルド:気に入らない…って…!!

チェルシー:それだけの理由で…!!


エルドM:それは、こっちの世界でもよくある話。後輩が上司に気に入られている図を見ている先輩はそれが気に食わない。最近来たばかり、目立っている人間を嫌う。自分が先だとマウントを取り、とりあえず「気に入らない」からメッタメタに打ちのめす。そうして、それを誇らしく語る。「社会は厳しい」と。「このような社会に負けてるようじゃ君には無理だね。」と。そういって新人のメンタルを折るのだ。法律に縛られず、グレーゾーンをうまいことすり抜けながら。

チェルシーM:ゲームで言うところの「初心者潰し」。そいつらのだいたいが、「優越感に浸ることの愉悦、恍惚」で動いてる。人間は「弱いものいじめ」が大好きだ。平和をうたう人間でも、その心中ではどこか見下していることもある。動物が意志を持っても、結局人間と変わりないのね。同じことの繰り返しであることを、この時私は初めて知って、そして呆れた。コトがアニマ公国軍を嫌うのも、わかる気がする。本質的なものは人間と変わらないんだって、身に染みた気がする。


ヤハム:次回予告です。序盤の対話だけで終わるとか虚しいです。次回は出番増えるといいです。

シュタイン:あはは!面白くなってきたねヤハム大佐!このまま二人は追い詰められちゃうんだ!

ヤハム:やめるです。大人がみっともないです。次回、「狐疑逡巡(こぎ しゅんじゅん)」。

シュタイン:…なんだろ、嫌な予感がしてきた。

第4話「狐疑逡巡」
第3話「吠影吠声」: 概要
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